業界トピックス

TOPICS

臨床研究法の執行後の問題点とCRO・SMOの対応

臨床研究法の執行により、医師主導治験の進行において様々な問題が発生しており、大手のCRO・SMOも、主に収益・コストの問題で支援業務への本格参入を見合わせている状況が続いている。

問題解決の第一歩として、JCTN:Japanese Cancer Trials Network 「臨床研究法の抜本的見直しに向けた提言」2019/5/28 「要望5」の、「いわゆる ICH-GCP 上の sponsor の概念」の導入が必須と思われる。

sponsor の概念が導入されれば、CROでの一括管理もより効率化され、CROとSMOの連携もよりスムーズに行われることにより、医師主導治験のコストに見合った支援が可能になるものと思われる。

以下~JCTN:Japanese Cancer Trials Network 「臨床研究法の抜本的見直しに向けた提言」2019/5/28より抜粋

臨床研究法の施行により、日本の研究者主導試験のアクティビティが、今後大幅に低下することが懸念されている。これらの懸念を払拭するためには、(1)コスト面での工夫(高額な認定臨床研究審査委員会の審査料や臨床研究保険の保険料への対策)、(2)運用面での工夫の双方が必要であるが、本提言は、これらのうち法改正、省令改正で期待される「(2)運用面での工夫」について、JCTN を構成する 9 グループから意見を収集し、取りまとめた。

重点要望 1
法第 2 条第 2 項第 2 号ロに規定される「適応外」の適用範囲を再審査期間中の薬剤に限定し、特定臨床研究の範囲を見直すべきである。

重点要望 2
実施計画と jRCT 登録内容を分離し、前者は厚労大臣への報告が必要なほどの重要事項のみに絞るべきである。

重点要望 3
研究責任医師や研究分担医師等によって申告された利益相反について、各医療機関の管理者が「事実関係についての確認」を行わなければならないとする施行規則第 21 条第 2 項の規定を廃止すべきである。

要望 4
施行通知(20)①の「原則として適切な保険に加入すること」という、法や省令に書かれていない踏み込んだ記載を見直すべきである。

要望 5
試験全体の運営責任、いわゆる ICH-GCP 上の sponsor の概念を臨床研究法にも導入し、全参加医療機関の合意がなければ sponsor の責務を果たすことができない現行の規定をあらためるべきである。

<理由>
この点は日本の薬機法、GCP 省令の医師主導治験に関する規定とも共通する問題であるが、国内の臨床試験実施の際のコスト高の原因となり、国際共同試験の障壁となっている根本的な問題である。 例えば、50 施設で多施設共同試験を行う場合、現在の臨床研究法では 50 の参加施設それぞれに研究責任医師が存在し、均等に試験の実施責任を負う構造となっている(研究代表医師はあくまで業務上の代表であり責任を負うわけではない)。これは GCP 省令において「自ら治験を実施しようとするもの」が各参加施設に存在するのと同じ構造である。一方で、ICH-GCP には「sponsor(試験の計画、運営、資金に責任を負う個人、会社、研究機関、団体)」の概念が存在し、sponsor が試験全体の運営責任を負うと同時に、各参加施設の investigator が自施設での実施責任を負うという構造になっている。つまり、試験全体の運営責任が日本の特定臨床研究や医師主導治験では各参加施設に分散しているのに対して、ICH-GCP では 1 つの団体や医療機関が sponsor の役割を負っていることになる。そのため、例えば有害事象報告ひとつをとっても医師主導治験では PMDA へ報告する前に全参加施設の「自ら治験を実施しようとするもの」が合意しなければならない規定となっている(ICH-GCPでは sponsor が判断すればよい)。そのため、品質管理(モニタリング)や安全性管理と最終的な管理・運営責任が一本化することにより、参加施設の負担が低下し(原則として品質管理や安全性管理の法的責任は無くなる)、試験実施を行う中央側でも効率的な運営が可能となる。

この乖離は国際共同試験を実施する際に特に顕著となり、10 か国でアカデミア主導の国際共同試験を実施する場合に、9 か国は IHC-GCP に基づいた手順書を作成すればよいが、日本だけ独自の手順書を作成しなければならないこととなっている(企業治験は GCP 省令で企業が sponsor の役割を果たして良いことになっているためこの問題は生じない)。

このことはアカデミア主導の国際共同試験を実施する際の大きな障害となっているため、この際、臨床研究法や GCP 省令の医師主導治験の規定、医学系指針も抜本 的に見直して、sponsor の概念を ICH-GCP と整合させるべきである。

要望 6
研究責任医師は、因果関係を問わず必要と思われる範囲のすべての有害事象を把握するよう、施行規則第 13 条の記載をあらためるべきである。さらに、リスクの低い、未承認・適応外の医薬品等を用いる特定臨床研究よりも、それ以外の特定臨床研究や非特定臨床研究の方が、疾病等報告の範囲が広いという施行規則第 54条の矛盾した規定をあらため、ICH-GCP にあわせ、因果関係があり、予測できない有害事象を CRB 報告対象とすべきである。

要望 7
総括報告書の CRB 審査後 1 か月以内に公表しなければならないという施行規則第 24 条の規定は、先進医療の場合には実現困難であるため期限を見直すとともに、先進医療の実施にあたっての多重審査の体制をあらためていただきたい。

要望 8
全ての不適合について速やかに実施医療機関の管理者に報告するよう定めた施行規則第 15 条の規定を見直し、GCP 省令と同様の運用とすべきである。